皆さんはスマート保安という言葉をご存知でしょうか?
ご存知のように、日本では生産設備の老朽化に加え、プラント設備の熟練労働者の引退による技術承継の途絶など、生産現場ならではの課題に直面しています。
本記事では、それに対する官民一体となった取り組みであるスマート保安とは?からその事例、全社的なスマート保安実現に必要な要件、それを支えるデータ基盤までをご紹介します。
令和2年6月にスマート保安官民協議会からだされた「スマート保安推進のための基本方針」によると、スマート保安とはの中で下記のように説明されています。
①十分な情報やデータによる科学的根拠とそれに基づく中立・公正な判断を行うことを旨として、②IoT や AI など安全性と効率性を高める新技術の導入、現場における創意工夫と作業の円滑化などにより産業保安における安全性と効率性を常に追求し、③事業・現場における自主保安力の強化と生産性の向上を持続的に推進するとともに、④規制・制度を不断に見直すことによって、将来にわたって国民の安全・安心を創り出すこと。
(出典:スマート保安官民協議会「スマート保安推進のための基本方針」2ページ)
つまり、IoTやAIといった最先端のデジタル技術を導入し、データに基づいた生産性の向上や遠隔監視の実現による生産現場の安全性向上などを図っていく取り組みのことを指しています。
それでは、現時点で製造業におけるスマート保安の事例はどのようなものがあるのでしょうか?
経済産業省が公開している「スマート保安先行事例集~安全性と収益性の両立に向けて~」の中から、スマート化技術を活用した事例を紹介します。
ある国内総合メーカーのプラントでは、今まで熟練労働者がDCSの5〜10種類のデータを一度に確認してプラントの運転を行っていました。しかし、そのような熟練労働者とは異なり若手従業員が一度に確認できるデータは2〜3種類にとどまり、暗黙知の継承ができていませんでした。その中で、事故リスクについて不安を抱える従業員が増えていました。
スマート化技術をプラント運転に導入することで安全性向上や品質の安定化が可能ではないかと考え、社長主導でビッグデータ活用を検討するソリューションチームを発足させました。また、ビッグデータ活用に必要なスキルをもった社内の人材をソリューションチームに入れることで、計算やデータ解析等の知見をプラント設計理論に詳しい自社人材にも提供し、社内でデータサイエンティストを育成しました。そして、異常予兆の検知システムをウェブアプリケーションで開発しました。
熟練人材が経験の中で身につけた異常の予兆に関する「気づき」をシステム化することで、予兆保全の実現とプラント運転の安定化に繋がりました。また、生産性の向上に伴う売上拡大への貢献も達成しました。さらに、海外のプラントでも運用を行い、どこからでも稼働情報をリアルタイムに把握できるという、ウェブアプリケーションの特性を活かした展開を行っていきたいとしています。
(参考:経済産業省 保安課「スマート保安先行事例集~安全性と収益性の両立に向けて~」より)
では、上記のようなスマート保安の実現のためには何が必要なのでしょうか?
Cogniteでは下記のように考えています。
スマート保安官民協議会が「十分な情報やデータによる科学的根拠とそれに基づく中立・公正な判断」というように、スマート保安の実現には多種多様なデータを統合して判断していく必要があります。データを基に、プラントの設備が実際にどのように使われているのかを把握できなければならないのです。
では、どのようなデータが統合する必要があるのでしょうか?プラントの実際の状況把握のために用いるDCSで利用可能なデータ(OTデータ)に加え、ERP上の受発注や購買データ(ITデータ)も必要でしょう。また、設計時に作成した3DデータやP&IDの図面情報、最新の画像データも組み合わせて利用することができれば、より現実に近い環境を想定しての判断ができるようになるでしょう。
DCSのデータやERP、マニュアルデータに記載されている機器情報は管理者が異なります。そのため、命名規則が一定ではなく、システムごとに異なるタグ名称など登録されていることがあります。この差分を認識することは同じプラントなどで長く勤務した熟練の労働者であれば容易に可能ですが、経験の少ない労働者では難しく、業務の生産性に影響を及ぼします。そのため、この差分を機械学習などの先端技術を基に関連性を自動的に見出し、現場で活用できるようにデータの関連性を把握する必要があります。
データは蓄えるだけでは何も価値を生み出しません。例えば溜め込んだデータをすぐにグラフなどの求められる形で可視化して、分析に使える形にする必要があります。ITの専門家であれば、Pythonなどのプログラミング言語を利用することでデータの可視化が可能です。しかし、プラント運営に携わる専門家の方々の見識を活かすには彼らが自分自身で見たいデータを直感的に利用できる必要があります。そのためには、利用する環境そのものがデータの可視化機能を持ち合わせているか、使い慣れたExcelやBIツールといったものへ容易にデータを共有できる必要があるでしょう。
さらに、コロナ禍の影響からリモートワークが必要になったことをふまえ、外部からデータを閲覧できるような状態を保つことも必要となるでしょう。
Cogniteではスマート保安の実現に適したデータの基盤を提供しています。
ここでは簡単にデータ基盤製品であるCognite Data Fusion(CDF)をご紹介します。
CDFはITやOTデータ、点群・3Dや画像など様々な形式のデータの取り込みに対応しています。
データを取り込む際にもExtractorと呼ばれるプログラムを提供しています。そのプログラムを活用することで、既存のデータベースや運転システムから自動的にデータの取り込みを行うことが可能です。
点群データに興味のある方はこちらの記事もご覧ください:「今さら聞けない点群データとは? - 製造業での活用事例も紹介!」
CDF自体がDCSやERP、マニュアルのPDFデータなどを統合して関連付けるコンテキスト化という機能を持っています。そのため、ユーザーの皆様はCDFにアクセスするだけで、様々なシステムに分断されていたすべてのデータを利用することが可能となります。
CDFはSaaSとして提供されているため、インターネットに接続できる環境があれば、外部からのデータ閲覧することも可能となります。
また、CDFにはChartsという、CDF上に存在している時系列データを可視化する機能を持っています。また、ExcelやPowerBI、GrafanaといったツールとCDFとの連携機能も持ち合わせており、ITの専門家だけでなく、プラント運転などに携わる専門家の方が任意のツールを利用してデータを活用することを可能にしています。
Cogniteの製品は実際にプラントの運転や保全の高度化に利用されています。本記事では紹介できませんでしたが、日本では実際に旭化成様にて利用され、デジタルツインを活用した保全活動の高度化に取り組んでいます。旭化成様がいかにCogniteの製品を利用しているかについては、下記資料をご覧ください。
下記資料は無料でダウンロードいただけます。